機械とは便利なものですよね。
今この記事を見ているパソコンやスマートフォンも便利な機械の一つです。
しかしそんな機械も常に成功だけしてきたわけではありません。
「失敗は成功の母」という言葉があるように、成功の陰にはそれ以上の失敗があったはずです。
今回は機械工学の世界で、失敗と呼ばれている事例を紹介したいと思います。
リバティ船

最初に紹介するのはリバティ船と呼ばれる船です。
この船は1939年から1945年にかけて、アメリカで大量生産されていた輸送船になります。
発生事故
リバティ船が実際に海に出ると、沈没事故が多発していました。
報告案件では、2708隻の船が製造された内、破壊などの損傷報告が1031件あり、200隻以上が沈むが使用不能になっていたとのことでした。
参考サイト:失敗事例>リバティ船の脆性破壊
原因
原因を探るとたくさんあると思いますが、ここでは機械工学的かつ代表的な原因一つに絞りました。
その結果、リバティ選の失敗原因と考えられているものは低温脆性破壊です。
当時のアメリカでは、大量の物資の輸送のため、船の開発は急務でした。
そのために開発期間を短くするするために、鉄板同士の継ぎ目を溶接で行っていました。
1本1本の大きいボルトを手で絞めていくよりも、鉄板を並べて溶接で一線にくっつけていった方が効率的ですよね。
しかし、これが失敗でした。
溶接手法が十分確立されていなかったこともあり、溶接した部分に細かい亀裂が発生していました。
金属でなくても、亀裂が入っていれば壊れやすくなることは想像しやすいと思います。
そして金属は低温になるほど壊れやすい性質があります。
冷たい海に浸かり続ける船であれば、より壊れやすくなることでしょう。
このような条件のため、海上で船体にひびが入り、割れてしまう事故が発生しました。
誤解のないように言っておくと、この事故をきっかけに、溶接の手法の見直しが行われ、冷たい海上でも割れないような設計になっています。
まさに失敗から改善していった事例と呼べます。
コメット号

二つ目はコメット号です。
これは1953年から1954年にかけてイギリスで発生したジェット旅客機になります。
発生事故
これは、ジェット旅客機が飛行中に空中分解したという事故になります。
飛行機での移動が当たり前になった現代では、背筋も凍る事故ですよね。
参考サイト:失敗事例>ジェット旅客機コメットの空中分解
原因
ここでも機械工学的な点から原因を述べると、金属疲労破壊になります。
機械を設計するときには安全率という考えがあります。
簡単に説明すると、実際に使用するギリギリの強度の材料を使用するよりも、少し強い強度の材料を使用しておこう、という考えです。
もちろんコメット号でも安全率を考慮した設計を行っていました。
安全率について、詳しくは以下の記事で解説しています。
旅客機は空中という気圧の低いところを移動する機械のため、地上との圧力差から発生する力への対策には特に気を使っていたと思われます。
当然安全率も2(通常発生する力に対して約2倍の強度)となっており、強度的にも問題ないという判断でした。
しかし、実際には地上と空中の往復によって、何回も力が加えられた状態と加えられていない状態を繰り返すことになります。
このことによって、金属自体が使用するたびに劣化し、強度が弱まって、破壊されたと考えられています。
現在では、金属疲労を考慮した設計が広まっているため、このような事故は滅多に発生しないと思われます。
タコマナローズ橋

3つ目はタコマナローズ橋という橋です。
これは1940年にアメリカのワシントン州に架けられた有料道路の橋です。
発生事故
橋の事故といえば想像がつくかと思いますが、タコマナローズ橋では、崩落が発生しました。
それも一部だけ穴が空くとかではなく、全体的に崩れるような破壊です。
参考サイト:失敗事例>タコマ橋の崩落
原因
この崩落の原因は自励振動です。
自励振動とは、旗が風によってはためくように、振動する力を加えていないにも関わらず、自分で強い振動を起こしてしまう現象のことです。
タコマナローズ橋は風速19m/sの横風を受けることによって、揺れを大きくしながら崩れていきました。
当時のタコマナローズ橋の設計には、風から受ける風圧力に対する強度(静力学的強度)は十分に考慮されていました。
しかし風から受ける風速に対する強度(動力学的強度)への考慮が抜けていたために発生してしまいました。
現在では、振動のメカニズムを解析し、つり橋の設計にも適用されています。
自励振動については、以下の記事で解説しています。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回は機械工学の3大失敗事故について紹介してきました。
まとめると以下のようにいなります。
- リバティ船は溶接部の亀裂が原因で応力集中して破損
- コメット号は繰り返しかかる力によって、機体が空中分解
- タコマナローズ橋は風による自励振動で崩落
失敗には原因があり、その原因は次の成功へ活かされて、現在の設計にも適用されています。
たまには過去の失敗を学んでみるのもいかがでしょうか。