皆さんパイプはご存じですよね。
よく工事現場などで柱として利用しているアレです。
さて、このパイプですが、円筒形状になっており、中は空洞になっています。
なぜこんな形になっているのでしょうか?
中に水や空気を通す管のようなパイプを使い方をするパイプならともかく、柱や梁のように使用するパイプでも、同じ形です。
今回は機械工学の材料力学的に理由を考察していきたいと思います。
考えの観点
まずは以下の2つの観点から考えていきます。
- 強度
- 質量
柱や梁など力のかかる部分に使用するのであれば、当然強度がないと不安です。
しかし強度ばかりに着目すると、重くなることは想像できると思います。
実際に組み立てるとなると、重いものを持って歩くのは辛いので、質量はできるだけ軽くしたいところです。
何本も持ち運ぶことを考えると、可能な限り軽い方が嬉しいですよね。
パイプの強度
今回の強度は曲げの強度で考えていきます。
前提として、両端を支持し、中央に集中荷重が発生する場合を考えていきます。
材料力学的に曲げのたわみの計算式は以下の式で表されます。
$δ=PL^3/(48EI)$
$δ$:梁の最大のたわみ[$m$]
$P$:中央にかかる荷重[$N$]
$L$:梁の長さ[$m$]
$E$:梁のヤング率[$Pa$]
$I$:梁の断面二次モーメント[$m^4$]
ここでは、「強度がある」とは「梁の最大のたわみ($δ$)」が小さいということにします。
そのためには、中央にかかる荷重($P$)を小さくする、梁の長さ($L$)を小さくする、梁のヤング率($E$)を大きくする、梁の断面二次モーメント($I$)を大きくする、の4パターンがあります。
今回はパイプの穴が空いている場合と空いていない場合の比較になりますので、$P$、$L$、$E$は共通とします。
断面二次モーメントは梁の形状によって異なります。
具体的には以下の式で表されます。
パイプに穴が空いていない場合
$I=πD^4/64$
パイプに穴が空いている場合
$I=π(D^4-d^4)/64$
$D$:パイプの外径[$m$]
$d$:パイプ穴の直径[$m$]
さて実際に計算してみます。以下、単位は全て$mm$にて計算しました。
実際にあるパイプの大きさD=31.8$mm$として、パイプの穴の直径が0$mm$から31$mm$まで大きくしていった場合の断面二次モーメントを計算した結果が以下のグラフになります。
ちょっと分かりにくいので、縦軸横軸を割合に直してみました。
縦軸は断面二次モーメントIを外径D=31.8$mm$時の断面二次モーメントで割った値を、横軸はパイプの穴の直径dを外径D=31.8$mm$で割った値としました。
パイプの穴の直径が55%くらいまでは断面二次モーメントが約90%程度で、あまり強度が落ちない事が分かります。
一方でパイプの穴の直径が70%超えたあたりからは急激に断面二次モーメントが落ち始めます。
つまり、パイプ外径の50~60%程度の穴が空いていたとしても、強度としては80~90%程度になり、あまり落ちない事が分かります。
パイプの質量
質量はパイプの体積に比例します。
同じ長さであれば、パイプの穴の直径が大きいほど質量が小さくなります。
具体的には、直径31.8$mm$で円柱の鉄(密度7870$kg/m^3$)の棒が1$m$あった場合、質量は約6.25$kg$になります。
断面二次モーメントと同じように、縦軸を質量$kg$、横軸をパイプの穴の直径$mm$とした場合の結果は以下のグラフのようになります。
当然のことながら、パイプの穴の大きさが大きいほどより軽くなることが分かります。
強度と質量のバランス
ここで強度と質量のグラフを重ねてみました。
縦軸は断面二次モーメントI、質量を外径D=31.8$mm$時の断面二次モーメントおよび質量で割った値を、横軸はパイプの穴の直径dを外径D=31.8$mm$で割った値としました。
青いプロットが断面二次モーメント、橙色のプロットが質量を示しています。
断面二次モーメントも質量も穴の大きさが大きいほど値が下がっていくことは分かりますが、下がり方に差があります。
例えば、パイプの穴の直径が外径の70%程度の場合、質量が50%程度になっていますが、強度は80%程度までしか落ちていません。
つまりパイプに穴を空けても、強度が落ちるデメリットよりも質量が減るメリットの方が大きいということになります。
これがパイプを円筒形にしている理由になります。
終わりに
いかがだったでしょうか。
今回はパイプについて強度と質量の観点から形状を検討してみました。
まとめると以下のようになります。
- パイプ外径の50~60%程度の大きさの穴を空けても、強度はあまり落ちない
- パイプの強度が落ちるよりも、質量が軽くなる方が変化が大きい
- 強度と質量のメリットデメリットを考慮して形状設計されている
鉄パイプのように、実は穴を空けても強度が落ちない、なんて物が他にもあるかもしれません。