皆さんは弾性変形・塑性(そせい)変形という言葉を聞いたことはありますか?
金属材料を考えるときには、弾性変形なのか、塑性変形なのかを判断する必要があります。
今回は弾性変形と塑性変形について解説したいと思います。
弾性変形とは?
弾性変形とは、力を加えた時にゴムのように伸びる変形のことを指しています。
この弾性変形領域であれば、力を加えただけ伸びます。
反対に、加えていた力を解除したら、元の大きさまで戻ります。
この性質は、金属の延性という性質を利用しています。
もしかしたら、「金属なのに伸びるのか」と疑問を持っている方もいるかもしれません。
例えば、金属に力を加えた時、以下の式のように変形することが知られています。
$δ=\dfrac{FL}{EA}$
$δ$:金属の伸び[$m$]
$F$:金属に加える力[$N$]
$L$:金属の長さ[$m$]
$E$:ヤング率[$Pa$]
$A$:金属の断面積[$m^2$]
このとき、金属に加える力$F$に比例して、伸び$δ$が大きくなっていくことが分かると思います。
つまり、$F=0$とするならば、変形も0になるので、力を解除したら変形も元に戻ると考えられます。
例えば、断面積が$100mm^2$、長さ$0.1m$の鉄の棒に$10N$の荷重を加えた時、約$48nm$ほど縮ませることができます。
このように金属に力を加えたら、目に見えないくらい微小の変化が起こっています。
塑性変形とは?
塑性変形とは、加えた力を外したら元の大きさに戻らない変形のことを指しています。
永久変形と呼ばれることもあります。
例えば、輪ゴムを千切れる直前まで引っ張り続けた後、力を解除すると輪ゴムが伸びていた、という経験をしたことがあるのではないでしょうか。
これは、ゴムを引っ張りすぎて塑性変形になるまで到達してしまったために、伸びてしまったことになります。
他にも、鉄パイプを踏みつけて凹ませてしまうことも塑性変形に当たります。
もっと身近な例だと、折り紙のように、紙に折り目を付けることも塑性変形の一種です。
弾性変形と塑性変形の境界は?
金属の場合、弾性変形の限界となる応力があります。
この応力を超えると、塑性変形となってしまいます。
以下に応力-ひずみ曲線の例を示しますが、この場合は降伏応力までは応力とひずみが比例関係にありますので、弾性変形領域となります。
一方で降伏応力を超えた場合、応力とひずみが比例関係でないため、塑性変形となってしまいます。
ちなみに応力とひずみについては以下の記事で説明しています。
弾性変形の例
弾性変形の例としては、力を解除して元に戻ることを利用した物が挙げられます。
板ばね
板ばねとは、金属の薄い板で、片側を固定したまま変形させることができる部品です。
力を加えているときと、加えていないときで形状が異なるので、文字通りばねの役割を担うことができます。
針金クリップ
ゼムクリップとも呼ばれています。
書類を一枚にまとめるときに使ったことがあるのではないでしょうか。
中央の部分が弾性変形し、書類を挟むことができるようになっています。
塑性変形の例
塑性変形を利用した例としては、一度変形した形状を元に戻さないようにして使用する場合が挙げられます。
L字アングル
横から見るとL字になっている金属板のことを指します。
机の内側の角部分の補強や壁掛けを作るときに使用されています。
元の板からL字に加工するときに塑性変形が使われています。
フライパン
日常にある身近な金属の一つだと思います。
フライパンの製法は色々ありますが、代表的な物としては、金属の板を型で引き延ばしてお椀形状を作っています。
この引き延ばしが塑性変形に当たります。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回は弾性変形と塑性変形の違いについて解説してきました。
まとめると以下のようになります。
- 弾性変形は力を解除したとき、元に戻る変形を指す
- 塑性変形は力を解除しても、元に戻らない変形を指す
- 材料の応力-ひずみの関係から、弾性変形領域を判断できる