突然ですが皆さんは、蝶のような小さな虫が飛べることに疑問を持ったことはないでしょうか。
あんなに小さく、ジェット機のように高速で飛んでいるわけでもないのに、飛べるのは不思議ですよね。
虫は飛べるのになぜ人間は飛べないのでしょう。
今回は蝶が飛べる理由を流体力学的に考察していきたいと思います。
レイノルズ数
レイノルズ数という言葉をご存じでしょうか。
記号だと「$Re$」という文字が主に使用されます。
単位はありません。数式で表すと以下のようになります。
$Re=\dfrac{ρvL}{μ}$
$=\dfrac{vL}{ν}$
$ρ$:流体の密度[$kg/m^3$]
$v$:流体の流速[$m/s$]
$L$:流体の代表長さ[$m$]
$μ$:流体の粘度[$Pa・s$]
$ν$:流体の動粘度[$m^2/s$]
ここで数式を考えてみます。
分子は流体の密度、流速、大きさの積なので、動きによる影響を表しています。
つまり分子は慣性力を表していることになります。
一方で分母は流体の粘度による影響のため、粘性力を表しています。
このように考えると、レイノルズ数は粘性力と慣性力の比を表していることになります。
レイノルズ数が1より大きい場合は、粘性力が支配的になり、反対に1より小さい場合は慣性力が支配的になります。
レイノルズ数は何に使う?
流体というものは、大きさによって影響が異なります。
例えば、家庭用扇風機の風で紙は飛んでいきますが、人間は飛びませんよね。
(紙と人間では重さの違いもあると思いますが、今は除外して考えます)
これは大きさによって風から受ける粘性力の影響が異なるからです。
レイノルズ数はこのように流体中で大きさの異なる物を検討するときに役に立ちます。
実際に、ジェット機の開発をするときも、小さいモデルを作り、実機とレイノルズ数を合わせた空間の中で実験を行います。
蝶の周りの空気の流れ
まず空気の動粘度は$25℃$で約$15.7mm^2/s$になります。
蝶は代表として、オオモンシロチョウとします。
飛ぶ速度は約$19.2km/h$です。
代表長さですが、前翅長$25mm~35mm$なので、間をとって$30mm$とします。
上記の条件でレイノルズ数を計算すると、$Re=10.2×10^3$となります。
つまり蝶の場合は、空気による粘性力よりも、はるかに慣性力が大きいという状態になります。
人間の大きさに直すと?
ここで人間の大きさに直して考えてみましょう。
大きさは日本人の平均身長として、$170cm$とします。
流速は$19.2km/h$とします。
$Re$一定として考えると、動粘度が変わってきます。
この場合、動粘度は約$890mm^2/s$となります。
この動粘度は空気や水より大きく、ソースや水飴などに近い値となっています。
つまり蝶にとって空気中を飛ぶということは、我々にとってドロドロのプールで泳ぐくらいの抵抗ということになります。
あとは体重を超えるだけの揚力を得られれば飛ぶことができます。
揚力については、以下の記事で説明しています。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回はレイノルズ数から虫(オオモンシロチョウ)の飛ぶ状態について考察してきました。
大きさによって流体の動粘度が変わってきますので、よく注意して検討しましょう。
まとめると以下のようになります。
- レイノルズ数は粘性力と慣性力の比を表している
- 同じ空気でも大きさによって、粘度の感じ方が異なる
- 蝶にとっては、空気の動粘度が大きいので飛びやすくなっている