皆さんは安全率という言葉を聞いたことありますか。
機械設計の世界ではよく問われる言葉になります。
今回はこの安全率について解説したいと思います。
安全率とは?
安全率とは、名前の通り部品がどれだけ安全に設計できているか、を示す値になります。
例えば、あなたが椅子を設計するとします。
そのとき何kgの体重まで支えられる椅子を作りますか?
体重が60kgだったとしたら、60kgまで支えられる椅子を作るでしょうか。
しかしそんな椅子を作ってしまったら、もし少し太って61kgになったら座れないですよね。
そのため、60kgの人が座ることを想定した椅子であれば、120kgまで耐えられるような構造にしておく、など不測の事態に備えてある程度余裕を持たせています。
ただし、余裕を持たせるにしても、どのくらいまで持たせておけば十分かの指標が必要ですよね。
これを表したものが安全率です。
安全率の計算方法
安全率は、応力と呼ばれる値から計算されます。
応力について詳しくは以下の記事で解説しています。
この応力を用いて安全率を計算します。
式で表すと以下のようになります。
$安全率=\dfrac{基準強さ}{許容応力}$
ここで基準強さとは、材料が変形したり、破壊したりしないギリギリの応力のことを示しています。
許容応力とは、文字通り許容できる応力のことを指します。
設計段階では、部品にかかる想定荷重のことを指すこともあります。
基準強さはどのように決める?
基準強さには2種類あります。
まず以下のグラフを見てみましょう。
これは材料の応力-ひずみ曲線と呼ばれているもので、材料に与えた応力とそのときのひずみの関係を表したものになります。
縦軸が材料にかけている応力、横軸が材料のひずみになります。
右上にいくほど材料に応力がかかり、伸びていくことになります。
ここで基準強さとして用いられる応力は2つあります。
引張強さと降伏点の2つです。
引張強さ:破断せずに堪える最大応力
降伏応力:荷重をなくしたときに、変形した材料が元に戻る最大応力
つまり強度を確保する目的によって、使用する基準強さが異なります。
荷重をなくしたときの永久変形すら許されない場合については、降伏応力を用いて安全率を計算します。
一方で、変形は許されるが、破断しなければいいという条件の場合は、引張強さを用いて計算します。
このように、設計では何を基準として安全率を算出したのか、という根拠が必要になります。
例として、板金材料の引張強さと降伏応力の目安を以下の表に記載します。
安全率はいくつ以上がいい?
厳密には、安全率がいくつ以上という規定はありません。
ただし、安全率が大きくすると強度的には安全にはなりますが、その分重量や体積が大きくなったり、高強度の材料を使用するため、コストが増えてしまいます。
そのため、重量を軽くしたいロケットなどでは安全率を低くしていたり、高価になってでも安全性を重視したい医療機器は安全率を大きくしている、などの傾向はあります。
安全性とコストを考慮して、最適な値を用いることが必要です。
アンウィンの安全率
とはいえ、何も基準がないと、設計する上で困ってしまうと思います。
そこで以下のアンウィンの安全率と呼ばれる値を用いることもあります。
しかしこの安全率は大きすぎるという意見もあります。
あくまで参考として使用し、実際に評価してみるという方法が望ましいです。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回は安全率について紹介してきました。
まとめると以下のようになります。
- 安全率とは、部品強度の余裕を表す値
- 基準強さには、引張強さと降伏応力の二つがある
- 安全率に決まった基準はなく、コストと安全性の両方を考慮して決める必要がある