皆さんは二乗和法という言葉をご存じでしょうか。
機械設計の公差を考える上で重要となる考え方ですが、なぜ二乗和法を用いるのか考えたことはありますか?
今回は二乗和法を用いるメリットについて解説したいと思います。
そもそも公差とは?
公差とは、寸法の上限・下限を表現するときに図面へ記載する値のことを指します。
何も記載がない時は、一般的な公差としてJISに記載されている寸法許容差表に従います。
詳しくは以下の記事で解説しています。
二乗和法の基本の考え方
ここで二乗和法の計算方法をおさらいしておきます。
$c=\sqrt{{a}^2+{b}^2}$・・・①
$c$:合計の公差
$a$:1つめの部品の公差
$b$:2つめの部品の公差
部品の各公差の値をそれぞれ2乗して合計したものをルートでまとめた値になります。
上記の計算例は部品が2個の場合を表したもので、部品がn個あったらn個の公差を2乗して合計します。
前提条件
ではなぜ二乗和法が成り立つのでしょうか。
ここからは理由を考えていきましょう。
まず、加工してできる部品寸法のバラツキは正規分布に従うと仮定します。
すると標準偏差$σ$を用いて、平均値±$3σ$の領域に99.7%の部品寸法が収まることになります。
ここで二乗和法を考えるときは、“$3σ$=(寸法許容差の上限)”と考えて計算します。
例えば、公差が±0.2であれば、$3σ=0.2$となります。
バラツキの標準偏差
標準偏差を合計するときは、単純に和で表すことはできません。
例えば、学生時代の学力テストで、国語の偏差値が51で数学の偏差値が52だったとして、総合で偏差値103にはなりませんよね。
その考えと同じで、標準偏差を合計するときには、統計学の考えを用いて以下の数式で計算できます。
$σ_C=\sqrt{{σ_A}^2+{σ_B}^2}$・・・②
この式②を元に考えていきます。
合計値のバラツキは$3σ_C$の値が分かれば、99.7%の値は分かります。
そのため$3σ_C$$の値は、式②の両辺を3倍して以下のように表されます。
$3σ_C=\sqrt{{(3σ_A)}^2+{(3σ_B)}^2}$・・・②’
ここで前提条件の“$3σ$=(寸法許容差の上限)”を使って考えます。
この考えを利用すると、$3σ_A=a$、$3σ_B=b$になりますので、式①が導出できます。
二乗和法のメリット
二乗和法で公差計算を行うメリットは、部品加工時の不良を抑えることができる点にあります。
以下の例を考えてみましょう。
部品が3つあり、部品①と部品②を組み合わせたものを部品③の凹みに入れるものとします。
寸法は変えられないという条件の場合、公差$X$はいくつを設定しますか?
まず単純に考えると、71mmの空間に70mmの物を入れるので、隙間は1mmあります。
全ての公差の合計値が1mmを超えなければ、凹みに入るはずなので、
$1mm-(0.3mm+0.4mm)=0.3mm$
という計算式が浮かんだかもしれません。
これは最大最小法で考えると、正しい考えです。
しかし二乗和法で考えるとどうでしょうか。
計算式は以下のようになります。
$\sqrt{0.3^2+0.4^2+X^2}<1mm$
この場合、$X<0.866$になりますので、結果的に最大最小法の倍以上の公差を指定できます。
このように加工時の公差を大きめに指定することができるので、加工不良は減らすことが可能です。
加工不良が減ればコストダウンにも、納期短縮にも繋がるので、設計者にとってはメリットが大きくなります。
二乗和法のデメリット
既にお気付きかもしれませんが、二乗和法は99.7%の製品をカバーしています。
言い換えれば、0.3%の製品は発生しないものとして考えています。
つまり0.3%の確率で不良品が発生してしまうリスクが残っていることを指しています。
この不良品は一体どこで発生するのでしょうか?
それは組み立て時に発生します。
先ほどの例をもう一度よく考えてみましょう。
$X=0.8$とした場合を考えます。
このとき部品①は最大で30.3mm、部品②は40.4mmになり、合計で70.7mmになります。
一方で部品③は最小で70.2mmになりますので、0.5mm分干渉する可能性があります。
もちろんこの可能性は0.3%ですので、もし他に部品が余っていれば、取り換えれば解決する可能性が高いです。
そのため、どこまでリスクを許容できるのかをよく考えて公差指定することが必要になります。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回は公差の二乗和法を用いる理由について解説してきました。
まとめると以下のようになります。
- 二乗和法を使用することで、公差の値を大きく指定することができる
- 公差の値が大きいと加工時の不良率が減り、コスト削減や納期短縮に繋がる
- 二乗和法では組立不良が発生する可能性が含まれているので注意が必要