皆さんは鉄とステンレスの違いについて考えたことはありますか?
身の回りにある代表的な金属ですが、どのくらい違うのかあまり知られていないのではないでしょうか。
今回は鉄とステンレスの違いについて解説していきたいと思います。
前提条件
前提として、板金の鉄とステンレスについて考えます。
以降の数値としては、鉄の代表としてSPHCを、ステンレスの代表としてSUS304を選択したものとします。
質量の違い
まず質量がどのくらい違うかについて比較してみます。
機械を持ち運んだりするときには、できるだけ軽い方が楽ですよね。
そのため、基本的には質量は軽い方が好まれます。
ここで比較する数値としては、密度です。
質量は以下の式で考えることができます。
$m=ρ・V$
$m$:質量[$kg$]
$ρ$:密度[$kg/m^3$]
$V$:体積[$m^3$]
つまり質量は密度に比例して大きくなりますので、密度が小さい方が軽いと考えることができます。
値を比較すると以下のようになります。
このように密度で比較すると、わずかに鉄の方が軽いという結果になります。
変形しやすさの違い
変形しやすさの指標として、縦弾性係数から比較します。
例として片持ち梁の変形を考えると、以下の数式で表されます。
$δ=\dfrac{ML^3}{3EI}$
$δ$:変形[$m$]
$M$:モーメント[$N・m$]
$L$:梁の長さ[$m$]
$E$:縦弾性係数[$Pa$]
$I$:断面二次モーメント[$m^4$]
このとき、材料による違いは、分母の縦弾性係数になります。
つまり縦弾性係数の値が大きいほど変形しにくいことを表しています。
値を比較すると以下のようになります
このように鉄の方が縦弾性係数が大きいので、変形しにくいということが分かります。
強度の違い
強度については、引張強さを基準とした安全率を元に考えます。
安全率については以下の式で考えられます。
$安全率=\dfrac{引張強さ}{許容応力}$
安全率の値が大きいほど、強度があることを示しています。
詳しくは以下の記事で解説しています。
引張強さは、数式の右辺の分子にあるので、値が大きいほど安全率が大きくなり、強度があるということを示しています。
鉄とステンレスの値を比較すると以下のようになります。
引張強さについては、ステンレスの方が値が大きく、強度があることを示しています。
前項の引張強さは鉄の方が大きいという点を考慮すると、静荷重を与えた場合、鉄の方が変形しにくいが壊れやすい、逆にステンレスは変形しやすいが壊れにくい、と考えることができます。
放熱しやすさの違い
放熱しやすさは熱伝導率の値を基準に考えます。
熱伝導による放熱は、以下の式で表されます。
$Q=\dfrac{kA}{d}ΔT$
$Q$:伝導する熱[$W$]
$k$:熱伝導率[$W/Km$]
$A$:熱伝導する面積[$m^2$]
$d$:熱伝導する距離[$m$]
$ΔT$:温度差[$K$]
熱伝導率は右辺の分子にあります。
つまり熱伝導率が大きいほど放熱しやすいことを表しています。
値を比較すると以下のようになります。
このように熱伝導率は鉄の方が3倍近く大きくなります。
ステンレスは熱伝導率が小さく、放熱しにくいため、ねじが焼き付きやすいということが知られています。
詳しくは以下の記事で解説しています。
長所の違い
鉄とステンレスには、それぞれ固有の長所があります。
鉄の長所
鉄の長所としては、コストが安いという点が挙げられると思います。
鉄は入手しやすいということもあり、他の金属よりもコストが低めに設定されていることが多いです。
そのため多くの構造材料は、最初に鉄系材料で検討を進めることが多いです。
ただし、メッキの種類や加工のしやすさ、物価の変動によってはステンレスの方が高くなることもあるので、加工を総合的にみてコストを判断することが必要になります。
ステンレスの長所
ステンレスの長所としては、錆びにくいという点があります。
ステンレスは鉄にニッケルやクロムといった金属を取り入れた合金であり、表面に不動態と呼ばれる膜が生成されています。
この膜があるため、表面で水分と反応して錆びを防ぐことができます。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回は鉄とステンレスの違いについて解説してきました。
まとめると以下のようになります。
- 鉄は密度・縦弾性係数・熱伝導率・コストの面で優れている
- ステンレスは引張強さ・耐錆の面で優れている
- 各特徴を踏まえた上で、材料選択することが重要