皆さんは機械図面などで、寸法に括弧が付いている寸法を見たことがありますか?
通常の寸法と異なる表現ですが、なぜこのような記載方法になっているのでしょうか。
今回は括弧付の寸法について解説していきたいと思います。
括弧付寸法の呼び方
括弧付で記載されている寸法は、一般的には”参考寸法”と呼ばれています。
文字通り参考にするための寸法という意味合いが強いためです。
本記事では便宜上、括弧付寸法と記載しておきます。
括弧付寸法の理由
括弧寸法を入れる理由としては、加工者の手間をなくすため、という考えが大きいです。
例えば、以下のような状況を考えてみましょう。
横方向の寸法だけを見れば、穴位置は記載されています。
しかし全長はどのように出すのでしょうか?
この記載の場合、全ての寸法を足し合わせて全長を算出します。
このような検討を人間が行っている以上、検討に時間がかかりますし、ミスの可能性もあります。
そのため、対策として事前に設計者の方から寸法を示して、加工者の手間をなくすという考え方が重要です。
二重寸法との関係
図面の寸法記載のルールには、同じ部分の寸法を記載しないという、二重寸法記載禁止のルールがあります。
同じ寸法が2か所以上書いてあったら、見にくいですよね。
それ以外にも、記載ミスなどがあったらどっちの寸法が正しいか分からないということもあり得ます。
括弧付きの寸法で記載しておけば、二重寸法になりません。
ただし、加工者にとって見やすい寸法にするという考えのため、括弧付きの寸法を書きすぎると、逆に見にくくなってしまいます。
使い過ぎには注意しましょう。
公差との関係
通常は、寸法を記載したら公差も決まります。
しかし括弧付の寸法は参考なので、寸法公差が適用されないことが多いです。
これは括弧の付いていない、通常の寸法の公差を優先して欲しいという意味を込めています。
例えば、以下の例を考えてみましょう。
20mmの公差は±0.2なので、最大20.2mmまで許容できます。
4か所全て20.2mmまで許容したと考えると、全長は80.8mmになります。
しかし80mmの寸法は80.3mmまでしか許容できないので、この寸法を満たそうとすると、かなり高精度の加工が必要になってしまいます。
では、以下の場合はどうでしょうか?
先ほどと異なり、一番右側の20mmが括弧付きで記載されています。
3か所の20mm部の公差は±0.2なので、20.2mmまで許容できます。合計で60.6mmです。
80mm部の公差は80.3mmまで許容できます。
そのため括弧付きの寸法を19.7mmとすることで、他4か所の寸法を満たすことが可能です。
このように1か所だけでも括弧付きの寸法を入れることで、他の箇所の寸法を公差内に収めることができます。
ちなみに公差については、以下の記事で解説しています。
括弧付寸法のメリット
設計者にとって、括弧付寸法を使用するメリットとは何でしょうか?
それは部品コストの低減に貢献できるという点が挙げられます。
理由としては主に次の3点が挙げられます。
記載されていない寸法の検討時間削減
加工の手順は、加工するメーカーによって異なります。
もしかしたら設計者の意図する手順と、全く異なる順番で加工しているかもしれません。
そのため、記載されていない寸法の値を知りたいということがあると思います。
括弧付の寸法があることで、寸法の検討時間を削減することができます。
一つ一つの寸法は微々たるものでも、複数個所・複数図面あることで、作業時間は何倍にも膨れ上がってしまいます。
作業時間を削減することができれば、人件費削減にも繋がり、最終的にコスト削減にも繋がります。
寸法NGによる不良品の削減
通常の寸法が記載されている場合は、出荷前に寸法を測定して検査を行います。
そのときに括弧付の寸法は、通常の公差が適用されないため、寸法値が図面から外れていたとしてもNGにはなりません。
部品の不良品率を下げることができれば、その分だけ製品コスト削減にも繋がります。
治具加工時間の削減
加工メーカーによっては、寸法公差内に収めるために治具を作成することもあります。
しかし参考寸法だったらどうでしょうか?
寸法公差内に収めなくても問題がなければ、精度の高い治具は必要ないかもしれません。
それであれば、治具加工の時間も削減することが可能です。
このように加工者の負担を減らしていくことで、コスト削減に繋がっていきます。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回は括弧付き寸法について解説してきました。
まとめると以下のようになります。
- 括弧付きの寸法は”参考寸法”と呼ばれることが多い
- 括弧付きの寸法を用いて、二重寸法削減や公差にも影響がある
- 設計者としても、加工者の負担を減らしてコストダウンを見込める