皆さんは鉄を火であぶっているところを見たことはありますか。
この作業を焼き入れと呼びます。
ドラマなどでは職人さんが鉄を火にかけたり、ハンマーで叩いたりしていると思いますが、なぜそんなことをしているのでしょうか。
今回は鉄の焼き入れについて解説していきたいと思います。
焼き入れをする目的
機械設計の世界では、まず鉄を使うことが基本となります。
もちろん、仕様によっては、屋外に置くのでステンレスにする、軽くしたいのでアルミを使う、大量生産するのでプラスチックにしたいなど変わってきます。
ところで鉄といえば、どんなイメージを持っていますか?
おそらく硬いというイメージがあるのではないでしょうか。
しかし、実は精製したばかりの鉄は比較的柔らかいのです。
そのままでは鉄を使用することができません。
そこで鉄を硬くするために焼き入れという手法を行います。
焼き入れの欠点
焼き入れをすることで鉄を硬くすることができますが、欠点もあります。
それは鉄が脆くなってしまうということです。
この脆さのことを「粘り気がない」と呼ぶこともあります。
硬さと脆さとは?
ここで、「硬い」けど「脆い」ってどういうこと?
と思ったかもしれません。
硬さと脆さというのは別の概念になります。
硬さとは?
硬さとは、へこみにくさと考えると分かりやすいと思います。
例えば鉄板に少し力を加えても、鉄板はへこんだりしませんよね。
これが硬いと呼ばれる状態です。
厳密にはビッカース硬度などの指標があります。
脆さとは?
脆さとは、破壊するまでに加えるエネルギーの大きさになります。
少し難しい概念なので、ピザの耳で例えます。
ピザの耳には「もちもち」した生地と「パリパリ」した生地があると思います。
「もちもち」した生地は、柔らかく、少し力を加えても伸びるだけでなかなか千切れないですよね。
これが粘り気がある、つまり脆くないという状態です。
一方で「パリパリ」した生地は、少しの力で簡単に千切れると思います。
これが粘り気がない、つまり脆いという状態です。
焼き入れして脆くならない?
ここまでの内容をまとめると、以下のようになります。
- 精製した鉄は、柔らかくて粘り気がある
- 焼き入れした鉄は、硬くて粘り気がない
ここでこんな疑問が浮かんだのではないでしょうか。
粘り気がない鉄を使ったら、すぐに壊れてしまうのでは?
ご想像の通り、完全に粘り気がない鉄の場合だったら、簡単に破断してしまいます。
理想で言えば、「硬くて粘り気のある鉄」が欲しいところですが、現実には硬さと粘り強さはトレードオフの関係にあります。
そこで、この状況を打破する方法が表面焼き入れという手法です。
実際に構造用使われている鉄(構造用炭素鋼)には、この表面焼き入れが用いられています。
表面焼き入れとは
表面焼き入れは、鉄の表面を800度以上の熱であぶって、内部温度が上がりきる前に、水や油で急冷して表面だけ焼き入れ状態にします。
こうすることで、表面は焼き入れ状態、中身は精製した状態の鉄が出来上がります。
言い方を変えると、表面はパリッと中はモチっとしている鉄になります。
これが、硬くて粘り気もある理想的な鉄に近い状態です。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回は焼き入れについて紹介してきました。
まとめると以下のようになります。
- 焼き入れ前の状態の鉄は、柔らかくて粘り気がある
- 焼き入れをした後の鉄は、硬くて粘り気がない
- 実際に使われている鉄は、表面だけ焼き入れして、硬さと粘り気を両立している